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五条楽園外伝〜チアノーゼ on my mind編〜   

「女の肉感が好きだ!」

時折、そんな自分の寝言で目が覚める。サチリアジス(色情症)でもなければ欲求不満でもない。ただ眠りが浅いだけだ。自分の寝言のあまりの声の大きさにすっかり覚醒してしまう。もう一度寝ようと毛布に自分をさらけ出すが、さっきまでのようにうまく毛布とコミュニケーションがとれない。あれほど我が肌のように感じていた寝具が、異物として体を刺激する。隣の部屋の住人の笑い声が聞こえる。俺の寝言を笑われているような気もするし、ただテレビを見て吹き出しただけのような気もする。どっちでもいいやと無関心を気取ると余計に気になってくる。答えを導きだそうと記憶をたどると、笑っていなかったような気もする。怒っていたような気さえし始める。人の感情など推し量れないものだ。極まった感情表現は怒りも喜びも同じに見えるもので、それが壁の向こうの突発的な「声」ならば尚更だ。だから「兎角に人の世は住みにくい」。

こんな夜は足の赴くままに飲みにいく。ロックンローラー気取りだがスコッチもバーボンもお手上げだ。ウィスキーは嗅いだだけで爪がはがれそうになる。もっぱら珈琲に依存する生活だが、こんな夜だけはベルモットをロックでヤることにしている。見た目が「樽で呑んでそう」なだけに「残念な男」と言われて久しい。返す言葉もないが、そんなことを言われる筋合いはもっとない。愛を込めていっているのだと反駁されるが、そんなやつには「愛を取り戻せ」と言ってやりたい。愛とはなあ、愛ってヤツはなあ、・・・知らん。愛とは何だ。その答えを見つけるために生きているような気がした。一秒でそうじゃないと思い直した。そんなことを考えているうちに、ある店の前に立っていた。


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「TARO CAFE」
河原町六条を少し南に下がったところにあるそのカフェは五条楽園の西の入り口を見張っている。俺がこの界隈に棲んでいた頃はこんな店はなかった。当時「アンチ・オシャレカフェ塾 三号生筆頭」であった俺が、あれば言ったかと言われると甚だ疑問だが、いなくなってからできたことに幾分の悔しさを持ったことは否めない。ここでお酒が飲めるかどうかは知らないが、ここでお酒が飲みたいと思った。今の俺はそう思った。アジアンテイストがスコールを連想させる。その雨のイメージが俺の今のウェットな気分にフィットしたに違いない。考えてみれば五条楽園に棲んでいた頃が一番精神をかき乱された。そのときにこの店があったなら、どれだけ救いになったことか!?「携帯電話持ってないの」と言っていた女の携帯電話が鞄の中でブルッッブル震えていたあの夜もあんなに苦しくなかったはずだ。酔いつぶれた女を木屋町に拾いにいく必要もなかったはずだ。涙がとまらなかった。あの時、一番必要なときに出会えなかった悔し涙、そして今、こうして7年の時を経て巡り会えた奇跡に歓喜の涙。運命に弄ばれるように今夜部屋を出て、導かれるようにここに来た。偶然じゃない。俺はここにいる。運命の糸にたぐり寄せられるように店に入っていった。


「大変申し訳ありません。本日は閉店となりました。」


二度とくるかっ!!!!!!!!!!


運命などないことを知った32の冬だった。

by wanpa-blog | 2008-12-03 02:29 | 高杉征司

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