五条楽園外伝〜The Dark Side Of The Moon編〜   

「行きつけのBAR」という言葉。

実にロックンロールな響きが漂う。現実はこれ見よがしの常連客とうるさい学生、一人の世界に浸りすぎているナルシストがはびこり、あまり落ち着かない。それでも、そんな俺でも足繁く通うBARがあった。BARなんてどこも同じ、そんなことはあり得ない。経営方針、スタッフの人間性、通う客の質によってまさに千差万別、踊る万華鏡だ。酒を得意としない俺にはそういった店の有り様こそがプライオリティーとなる。そして自分に合った店というのはほんとうに少ない。BARに何を求めるかはそれぞれだが、俺は「秘密の共有」に重きを置く。実際に秘密を共有する訳ではない。そこで飲むことで秘密の共有感を味わうのだ。隣席で性欲丸出しのコンパなどやられては秘密も共有もあったもんじゃない。自分の性欲は抑えればエネルギーにもなるが、見知らぬ下品な性欲は塩こしょうしたって犬も喰わない。バーテンダーがおしゃべりなのもno goodだ。上品かつ上質なおしゃべり野郎もいなくはないが、基本的にはそのEGOに障てられて、毒気づいて帰ることになる。店の名前も重要だ。「しめさば」なんてBARではやはり秘密は共有できない。

そうやって絞りにしぼって、やっと見つけたBARがなくなった。
刺激を求めて夜な夜な街を徘徊し、満たされぬことに大いに満たされて刹那を貪った25の俺には禿げるほどショックだった。その店に通うことでどこか心のバランスをとっていたことに気づかされた。「空気みたいに愛してる」裕木奈江の歌だが、今は関係ない。とにかく行き場を失った俺は地を這うような咆哮でメタリカの「Until It Sleeps 」を天高く絶唱した。もちろん救急車が来た。自分は正常であることを告げたが「みなさん、そう言うんです。」と乗ることを強要された。逃げるようにそこから逃げ出した。逃げているのだから逃げるようなのは当たり前だと思ったら、笑いが止まらなくなった。まさに狂気の沙汰だった。「狂気」?
そうだ、俺には「ピンクフロイド」があるじゃないか!学生の頃に幾度か行って、気に入っていたBARだ。あそこなら秘密を共有できる。名前も最高にイカしている。イカしているという表現が最高にイカしていないことにも気づかず、一目散に目指した。プログレの帝王「ピンク・フロイド」の名を冠するその店が、俺に新たなる息吹を吹き込んでくれる。

c0144613_2175862.jpgここだ。五条河原町の北東、松原西木屋町を少し上がった雑居ビルの二階、ここが俺の次なるオアシスとなる。ウレションを漏らしながら店の小窓を見上げた。これからはあの窓から階下を見下ろすことになる。
c0144613_2185555.jpgこの細い階段が「stairway to heaven(天国への階段)」となる。若干の違和感を感じながらも、「久しぶりだからさ」と自分に言い聞かせ、ゆっくり階段を上っていった。一段また一段と踏みしめるたびに違和感は膨らんでいく。入り口の前に立ったときには、「この店に入りたくない」とさえ思っていた。なぜだ、あんなにも焦がれた次なるオアシスではないか!?しかしその思いとは裏腹に俺の心臓はZ2(”ゼッツー”言わずと知れたKAWASAKIの名車)のような爆音をあげて口から飛び出してきそうだった。なぜ俺の危険察知アイドリングはこんなにも高まっているのだ。二足歩行も困難になり、四つん這いで情けなく虚空を見上げた時、違和感の謎は解けた。

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「COCOBONGO(ココボンゴ)」

店の名前が変わっている・・・
コンタクトレンズが目から滑り落ちたが、探す気になれなかった。ぼやけた世界をぼんやりと見ながら、「世界はこのようであればいい」と思った。その後のことは覚えていない。


33になった今も時折顔を出している。
名詞にはこだわらなくなった。年とともに角がとれ、少しずついらぬこだわりが無くなっていく。子供が出来たら、滑稽な名前をつけてやろう。
自由になれた気がした25の夜、だった。
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by wanpa-blog | 2009-01-21 02:21 | 高杉征司

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